9.体臭のきつい犬。
売主になる夫婦が高齢、同居する2匹の犬も高齢。14年間の親しい関係。自分たちの子供より大切にしている。犬の体臭が充満している家を販売することになり、苦労したが運良く買い手が見つかった。 老夫婦にとっては何回か住まいを買い換えているが、高齢の犬と同居しながら自宅を売り出すのは初めてのこと。犬との共同生活が家の売れ行きに影響があるとは思ってもみない。14年の間、苦楽を共にして生活しているので家の見栄えがどうの、臭いがどうのとあまり感じない様子だった。 わたしは鼻が利くほうで最初に面談した瞬間、当惑して顔をしかめたことを思い出す。 夫婦はわたしの気持ちに関係なく犬とたわむれながら会話をしていた。 いきなり、「この状態では販売が困難である」とは言いがたく、とりあえず販売することにした。 二人の子供たちは早くから独立し、家には立ち寄ることが少なかったようで、犬が代わり役のような振る舞いで生活していた。 同じ食べ物を同じ時間に食べる。睡眠時間も似たようにとり同じ空気をすっている。犬の臭いが気になると言ったときなど、表情が変わるほどに怒ったことがあり、以後はあまり触れないようにした。夫婦にとっては、わたしの5分の一ほども感じていなくて、人と犬の体臭が混ざり合い比較対照が出来ない環境であった。 宣伝を開始してお客さんを募り、下見するお客さんを部屋に案内することになった。案の定である。強烈な臭い、お客さんはポーカーフェイスを決め込んで嫌な表情を出さずに犬から離れるようにして室内を見ていた。言葉も出さずに。しかし、目が嫌がっているのがわかった。適当に見学して帰る。気に入らないので連絡もない。 三組のお客さんを案内したが、同じ繰り返しで終わった。 不動産の仕事をして、犬・猫を室内に飼いながら自宅を売るケースは何回もあるが、その臭いは許容できる範囲であった。年々、ペットが増えている時勢でもあり、購入の予定で家を見る人も、ある程度は理解しながらの下見であったはずだが、あまりの臭気の凄さに表現しづらかったとおもわれた。 7組の下見案内をしたころには2ヶ月経過していた。すでに、お客さんの感じ方を理解できているものとして売主に提案した。 1.案内のおりの1時間前には犬を散歩に連れ出すこと。 2.お客さんが帰って後に知らせに行くまで家に帰ってこない。 不承不承であるが了解して実行に移すことになる。売主のご主人は元気なく寂しげに犬を外に連れだすことになった。 10組のお客さんを案内しても買い手が現われなくて少しあきらめのムードになっていたころ、販売当初の人で再度、室内を見たいと言ってきた。そこで、再度の案内をして買う気を打診してみた。その結果、若干の価格条件を受けてくれれば購入すると表明された。問題の犬については別段気にしないと言ってくれた。わけを聞くと、自分たちの家も犬が同居しているので臭いは慣れているそれに、猫と他のペットも一緒であると、たいへん嬉しいことを言ってくれた。 結局、売買契約することができたが購入者の動機から考えると、最初から犬を外に出して臭いを少しでも軽くする必要はなかったことになる。 趣味がよく似たひとに縁があるかどうか、そのような人をいかに早く見出すかがキーポイントだったことになる。犬好きの買い手を求む、と宣伝して販売活動をしてもよかった。 臭いを気にしすぎて小細工し歓心をかうことをせずに、清潔を保持してあるがままのすがたを見せればよかったと自戒することとなった。 犬も高齢、夫婦も高齢、お互いが拠りどころになって生活している。仲のよいムードを見ればよってくる人も増えてくるはず。 家の決済がすんで引越の当日、老夫婦が車に乗って犬を同乗させようとしたが、なかなか車内に入らず、家に戻ろうとした。結局、わたしも含めて3人がかりで、無理やり車に押し込んだ。しかし、悲しそうな表情でうめき声を出していた。人以上に家思いであった。 |
||